学生時代の夢だった。
三十歳くらいを過ぎてそうポツリとつぶやく人は、どの分野にもいる。
でもほんとうのところはどうなのだろう。
もともとの情熱がしょせんはそこまでだったのではないか。
実力だって自身がおもうほどにはなかったのではないか。
だから学生時代の夢だったで終っちゃうのだろう。
昨夜読んだ本。
『剱沢幻視行 山恋いの記』(和田城志著)
(何度めかの再読)
この著者は、冬の黒部横断を若いときから約五十歳まで30回行っている。
剱岳・八ツ峰北面の雪稜や剱沢大滝など、隔絶されたエリアにおける難度の高い登攀をも組み込んでいる。
二十代三十代で力のかぎり登ろうぜと語る人はいるけれど、多くは四十歳くらいから急におとなしくなっちゃう。
30年ちかくにわたり毎冬黒部横断を実践する人、もしかしたらもうあらわれないかもしれない。
オイラ個人の体験からすると、冬の長い縦走ってどうがんばっても三十代半ばが限界だった。
昨夜読んだ本。
『酒を主食とする人々 エチオピアの科学的秘境を旅する』(高野秀行著)
旅のアクシデントやハプニングは、できることなら起きてほしくないけれど起きないとこれまた物足りなさをかんじてしまう。
この著者の旅は、今回にかぎらずアクシデントやハプニングが多い。
成田空港カウンターで、ヴィザなしではご搭乗いただけません、からこの本ははじまる。
ようやく現地に着いて取材開始するも、こんどはヤラセに巻き込まれそうになる。
よりによってヤラセ前科一犯のクレイジージャーニー。
なんと今回はクレイジージャーニー側がヤラセにひっ掛かった。
ちなみにオイラもクレイジージャーニーで猛吹雪の八甲田山へ行ったものの、アクシデントもハプニングも起こらず視聴者を楽しませることができなかった。
ホワイトアウトでディレクターともカメラマンとも離ればなれになって、オイラが行方不明になり雪解けとともに遺体で発見されたら視聴率に貢献できたかもしれない。
そのときのカメラマンは昨年K2西壁にトライしたまま生還せず。ある意味でホンマモンのクレイジージャーニー。
さて、この本は酒を主食に暮らすアフリカのエチオピア南部の民族のはなしである。
そんなん、あり得るのか!?
もちろん副食は食べるが、酒が主食で身体がだいじょうびなんか。
彼ら酒主食族は日常的に、脂、砂糖、塩をほとんど摂取しないことが今回の調査でわかった。
部分的には、ひじょうに健康的。
また酒主食族の体型をみるかぎり、がっちり型が多く健康を害しているとは考えにくい。
「彼らは科学がまだ達していない『未知』の領域にいるのだ」(本文より)
地理的秘境はもはやなくなったといわれるけれど、科学的秘境はまだあるのではないか。
ヤマケイやピークスを熟読して栄養バランスやカロリーをことこまかに計算しても、山に入るとすぐバテる人をたくさん見てきた。
日本酒を飲んだくれてわずかなツマミだけで、信じられないスピードで冬壁を登る酔いどれクライマーもいる。
このあたりもまだ科学的に解明されていない。
ああすればよかった、こうすればよかった。
そう嘆く人は多い。
何年か前にあるいは何十年か前に、「今やりたい」けれどやらずに終ってしまった。
踏み込めなかった原因は、やっぱり失敗したらどうしようというプライドだったのか。
そんなふうにあれこれ考えながら歩くことが、ここ最近すごくおもしろい。
きのう読んだ本。
『登頂八〇〇〇メートル 明治大学山岳部十四座完登の軌跡』(谷山宏典著)
1970年植村直己のエベレスト登頂から2003年アンナプルナ1峰南壁登攀まで、八千メートル峰14座の記録。
かんじたこと以下。
・明大山岳部といえばはじめっからニンゲン離れした強い人ばかりかとおもいきや、そうともかぎらない。遠征を二回三回と積み重ねてサミッターになってゆく。もちろんはじめっから強い人もいる。
・努力が結果にむすびついている。その理由に、日本の雪山でしっかりと厳しい山行を実践していること。そして明確に目標を設定していることにあるのではないか。なお世の中は努力を標榜するだけで万年初心者のまま人生の幕を閉じる人が圧倒的多数である。
・この人毎年遠征しているけれど日本での生活はどうなっているのかと疑問におもうことは多い。隊員それぞれの背景も取材している。会社を辞めざるを得ない場面も出てくるものの、明大山岳部の人は概して社会性が高そうだ。登れることは登れるけれど一般常識が著しく欠如している一部のクライマーとはちがう。
・しっかりした組織の明大山岳部と組織に属さないオイラでは接点がないようにおもわれがちだけれど、担げるだけ担いでラッセルして長期の停滞をこなしてと山行スタイルはきわめてちかい。
「登れなかった登山は、登れなかった者の捉え方によっては、決して無駄にならない。むしろ、新たな登山の志向を見出したり、自分を大きく成長させるきっかけになる」(本文より)
きょう読んだ本。
(20年以上ぶりに再読)
『みかん畑に帰りたかった 北極点単独徒歩日本人初到達・河野兵市の冒険』(埜口保男著)
2001年5月、北極海で氷が割れて死亡した冒険家・河野兵市のはなし。
河野兵市の冒険の足跡はネットでいくらでも出てくるから略。
本腰入れて冒険やるなら、プロがいいのか。
サポートしてくれる人や企業があらわれても趣味のままのほうがいいのか。
どちらがいいのかは、本人にしかわからないだろう。
これから本腰入れた冒険を志しているけれどプロかアマか悩んでいる若手には、いろいろと参考になりそうなはなしだよ。
そして冒険を別の何か、つまり情熱の対象に置き換えてもおなじことがいえるのではないか。
「なあ、河野、よ。またあのころに、帰りてえなあ」(本文より)