きのう読んだ本。 『アルパインクライミング考』(横山勝丘著) 予想どおりだけれどレベルが高い、高すぎる。 「オメーがやってるのなんて登山でもクライミングでもなんでもねえ! そのレベルでやりましたなんて、思い込みもそこまで激しくなるとオシメーだぜ!!」 頁をめくるごとに、そういわれているような気さえする。 じっさいこの著者と同じことができる人は、日本でも数えるほど。 ではこの本は先鋭クライミングをめざす人にしか役に立たないのかというと、もちろんそんなことはないと思う。 たしかに登場するのはアラスカ、ヒマラヤ、ヨセミテ、パタゴニアと困難な岩壁や氷壁のオンパレード。 あるていどの体力とあるていどの技術とあるていどの判断力さえあればできるような、一般ルートから歩いて登れる山はひとつもない。 ところがこの著者の登山(クライミング)に対する考え方向き合い方は、ときに斬新でなかなかおもしろい。 (まあ斬新だからこそ最先端のことやってるいるのだけど。) すくなくともいまの自分の行動に還元できそうなことが、大きく3つほどあった。 まずこの著者は、精神主義に陥らず論理的である。 正しくは強靭な体力と精神力の上に論理的な思考を重ねている。 (机上講習などでは話上手だけど山に入るとクソの役にも立たないなんちゃって講師とちがって、実践者として説得力がぜんぜんちがう) たとえば登山などで失敗したさいに、やる気がなかった気合いが入ってなかったの一言で片づけてしまい、もっとほかにあったであろう失敗の原因をうやむやにするケースはよくある。 (何よりもオイラが毎回そうだもんね(笑)) 根性がなかった体力がなかったといっていても、じつはいちばんの敗退原因は技術不足や装備の選択ミステだったみたいな。 確実な技術があれば、体力だって精神力だってムダに消耗することはない。 もちろん失敗の原因はそう単純明快ではないだろうけれど、それでも丹念に分析してゆくことはだいじだ。 この著者は敗退を重ねるごとに、次なるチャンスへと繋げてゆく。 失敗のなかにこそ成功のカギがある。 つぎに、これまでの固定概念をいたるところで打ち破っている。 たとえば弱点ではなくて強点。 訊き慣れない言葉で、これだけだと???かな。 その山なりその岩壁なりのもっとも登りやすいところを選ぶのではなく、もっとも厳しいとおもわれるところを登る。 あえて厳しいほうを選ぶとは、つまりやり甲斐、登り甲斐である。 守りから攻めへ。 この発想の転換によって、かぎられている空間において可能性の幅が一気にひろがる。 課題とはさがすのではなく創りだすものではないだろうか。 白いキャンバスにのびのびと絵を描くような芸術作品にも似ているのかもしれない。 そして最後に、世界の厳しい山を知るこの著者があらためて日本の冬山の難しさ説いている。 スケールというひとつの基準だけで海外の山と比較すれば、どうしたって日本の山はちいさい。 ところが日本の山には雪質の悪さやときに絶悪ともいわれる気象条件の悪さなど、海外の山とは比較にならないような独特の厳しさがある。 そういえば猛吹雪の日に突っ込むのも世界的に見ても日本のクライマーだけのようだ。 それもごくかぎられた一部の物好きたち(笑) 日本の山だって、まだまだ課題はいくらでも創りだせるということだ。 以上のような視点で、この本を読んでみた。 まともにクライミングやってるともまともに雪山やってるともまともに何かに取り組んでいるともとてもではないけど言えないようなオイラだけど、それでもこの本のなかにはこれからの自分の行動に還元できそうなヒントがたくさん隠されていた。 いや、それにしてもこの著者もその同行者もレベルが高い。高すぎる。 やはり自分なりにせいいっぱいやりましたなんていう言葉も、ちゃんと選んでつかわないと、な。