『「承認欲求」の呪縛』(太田肇著) たとえばテストで良い点をとったとする。 教師もまわりもなんとなく期待する。 それをきっかけに期待に応えようと、以前にも増して頑張るようになって成績も徐々にのびてゆく。 しかしやがてスランプがやってくる。 これだけがんばったのにどうして結果がともなわないのだろう。 いつしか教師もまわりもかつてほど期待はしなくなる。 ある意味でそれがその人の真の実力だったのかもしれない。 ところがその人にとっては、一度得た評価をそうそう簡単には捨てられない。 いや、こんなはずやない。 成績が下がりはじめても幻影にも似たかつての評価にしがみつく。 その先はやればやるほどドツボにハマる。 以上はあくまでたとえ話。 でも似たような話はだれもが経験したり聞いたりしたことがあるだろう。 承認されることによって、どんどん力がのびる。 承認されなくなることによって、どんどん精神的に不安定になってゆく。 この本は、著名人の自殺や犯罪を例にして承認されることによる光と陰についてかたっている。 承認されることはそれなりに必要だけれど、いっぽうでほどほどにせいということか。 よく失敗して自殺するなんて技能的には長けていたのかもしれないけれど人間的には未熟であった。 そうコメントする輩ってけっきょくは失って困らないていどのものしか手にしたことがないんじゃないか。 何かに取りつかれるなりのめり込むなりして、気がついたら取り返しのつかないところまで突き進んでしまった。 そういう境地に達するのも、もしかしたらその人にとっては幸せだったのではないだろうか。 幸せだったか幸せではなかったか、それだけはたとえ学者であってもはかることはむずかしいのではないか。 きっと本人にしかわからないのではないか。