山は逃げない。 そうよくいわれるけれど、じっさいはそうではない。 たしかに山は逃げないけれど、情熱というものはやがて冷める。 情熱とは旬みたいなもので、その時を逃すと必然的にチャンスも遠ざかる。 結局、山は逃げてゆく。 山にかぎったことではなく、あらゆるチャンスはそういうものだろう。 一生のうちでチャンスが1度きりというわけでもないが、チャンスはそう多くやってくるものでもない。 * この写真は2001年冬のカナダのセルカーク山脈の偵察時に撮った。 写真を撮った1時間後にクレバスを踏み抜き、この山がすっかり怖くなってしまい、本番として予定していたセルカーク山脈の縦走は中止した。 そのとき以来、この山には1度も訪れていない。 おそらくもう冬のセルカーク山脈の縦走を試みることはないだろう。 たった1度のわずかな失敗で、チャンスはあっけなく崩れ去ったりするものだ。 しかし、ひとつの可能性を「切り捨てた」ときから次なる可能性がはじまるともいえる。 セルカーク山脈でクレバスを踏み抜いた翌冬に、カナディアン・ロッキーを4カ月費やして1200キロ縦走した。 1つがうまくいかなくても、次をめざせばそれでいいのだと思う。