黒部の下ノ廊下を旅してきた。 そこでひさびさに黒部の3大岩壁に再会した。 奥鐘山西壁、丸山東壁、大タテガビン南東壁。 いずれも二十歳のころに、かなり頻繁に登っていた。 最近は岩の崩壊のためにかつてのように登れないそうだ。 なかにはルートが消滅したものもあるようだ。 つまり一部は、現在はもう登れない状態。 二十歳のころはこれらの岩壁は、これからもずっとあるもの登れるものだとふつうに思っていた。 でも岩壁にかぎらず世の中あらゆるものが、いつまでも同じ状態がつづくとはかぎらない。 二十歳のころにいろいろなものを犠牲にして登っていたけれど、もしかしたら無理して焦って登ってそれはそれでよかったのかもしれない。 あれから30年経った今でも、これまたあらゆるものを犠牲にして旅をしている。 チャンスを生かすためには、つねに何かが犠牲になる。 一生のうちでチャンスが一度きりということもないけれど、そう多くもないだろう。 やりたいことを今すぐに着手できるとはかぎらないけれど、できるかぎりはやめはやめに手をつけていかないといつしかチャンスは遠ざかってゆく。 失った時間はもうもどらない。 下ノ廊下を歩きながら黒部の三大岩壁を眺めながらそんなことを思った。