「語るに値することは何ひとつありませんッ!」 近況を訊かれてそう答えると、たいてい空気が凍りついて会話が途切れる。 だってオリンピックでさんざんメダルをいくつ獲得したとか話題になってるってのに、自分なりにコツコツ努力したくれえで皆の前で何々やりましたなんておこがましくないだろうか。 他人との比較がすべてではないとはいえ、客観性がなさすぎるのもどうかな。 行動の成果そのもので完結するスポーツに対して、登山や冒険はいくらでも言葉によって偽造することができてしまう。 同じ登山や冒険であっても、死ぬかと思ったと一言添えることで、とたんにグレードアップされてしまう。 いや純粋に行動で勝負するアスリートと行動で足りないところを口でちゃらまかしてしまう登山家や冒険家のすさまじいばかりのギャップをすごく感じたりしているから。 だから近況を訊かれても、ぶっきらぼうに何もしてません、って自然に口から出ちゃう。 そういうトゲトゲしいノリが一般大衆を前にふさわしくないということはわかってるんだけど。 植村直己冒険賞20周年記念、ちょっと疲れたかな。 いや、けっこう疲れた。