この地を訪れるのは7回目になる。地元の人も「今冬は異様に寒い」といっていた。案の定、頬に酷い顔面凍傷を患った。 温度計はマイナス40度Cめいっぱいまで下がっていた。すさまじい北風が吹き荒れる。手の指も凍傷でスキーのストックが握れなくなった。低体温症も併発してふるえがとまらなかった。 そして凍傷を患った頬が腫れた。目のまわりも腫れあがり、とうとう目も見えなくなった。あっけなく断念となった。期間2週間余、踏破距離200km。これが自分の精神と体力の限界だった。 * さて今回は断念したけれど、気分はなぜかスッキリしている。きっとそれなりに全力を出せたのだろう。あのときああすればよかったのに、といった悔いはない。結果はさておき、とにかくやれるところまではやった。 厳冬カナダ通いは15回目になるけれど、充足感を得られるのはそうそうない。あのときもっと勇気を出して前進むべきだった、と旅を終えるとともに後悔するほうが多い。不思議なことに、成功したときほど充足感はすくない。おそらくハードルの低すぎる計画だったのだろう。やたらと計算高くなってしまったともいえる。その結果、予期せぬアクシデントも起きない。物事がスムーズに進むと、たしかにムダはないけれど同時にドラマはなくなる。失敗するのとドラマが起きるのとは紙一重かもしれない。 ところで「やれるところまではやった」と思える旅もそれなりにある。1998年 厳冬季カナダ・ロッキー山脈スキー縦走(山中で骨折、なんとか自力下山)。2001年 厳冬季カナダ・セルカーク山脈スキー縦走(偵察時にクレバスに落ちる)。2007年 厳冬季カナダ・ウイニペグ湖スキー縦断(鼻の酷い凍傷、切らずにすんだ)。2008年 厳冬季カナダ中央平原自転車縦断(足の指の酷い凍傷、のち両親指壊死部分切断)。そして今回の厳冬季カナダ・ウイニペグ湖スキー縦断(頬の酷い凍傷。その後どうなるか不明)。 どれも濃密な時間だった。自分はいまたしかに生きているって実感した。そして自分の弱さも限界も突きつけられる。言葉にするのはむずかしいけれど、きっとそのとき旅の頂点に登りつめていたのだと思う。 いずれにしても今冬のカナダの旅に悔いなし。あくまでも今冬は。そして来冬もまた新たなるなにかに挑むのだろう。もしかしたら今回はヤバイかな、というあの緊迫した独特の感覚は、麻薬のように中毒になっているのかな。あと10回くらいそんな体験をすれば、わが人生に悔いなしっていえるのかもしれない。